卒業生数増加+コロナ禍で「泣きっ面に蜂」  2020年大学卒業生の行く末

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 先月、皆様にお送りした「2020年第1四半期のビッグデータ」でも紹介した通り、本年度第1四半期の求人案件数は、前年同期比で約20%ほど減少しています。新型コロナウィルスの影響を受けて採用を見送ったり、人員計画の調整を迫られたのが主な原因と見られます。

 労働力の受け口である企業が需要を縮小している中、最大の供給元である大学生の状況はどうなっているのでしょうか。卒業シーズンを迎えた今、お客様からもこういった問い合わせをいただくことが多くなりました。

 そこで今回は、中国最大の求人サイトである「智聯招聘」が行った調査結果に基づき、求人倍率や卒業後の進路など、新型コロナウィルスの流行が大学生の就職にどのような影響をもたらしたかをみていきたいと思います。

※本篇の「大学生」は専科、本科、修士、博士を含みます。

 

【表1】 2019年~20203月 求人倍率の推移

 

四半期

求人倍率

全国 大学生※
2019年第1四半期 1.68 2.82
2019年第4四半期 2.18 2.17
2020年第1四半期 1.43 1.38

 

卒業生数アップ 企業ニズダウン
大学生にとっては不利な求人倍率

 【表1】は中国全国の企業と大学生をサンプルとして算出したものです。

 中国人民大学・中国就業研究所の発表によると、2020年の中国全土の大学卒業生(専科、学士、修士、博士卒を含む)の総数は874万人に達します。卒業生の数は毎年過去最多を更新し続けており、今年は2019年より40万人増えています。

 求人倍率の分子は企業の募集人数、分母は求職者数です。例えば企業の募集人数が10、求職者数を5とすると求人倍率は2.00になり、働き手が足りないということになります。分子と分母をひっくり返してみる と、倍率は0.5倍になり、1つのポストを2人で奪い合いということになり競争が激しくなります。

 2020年第1四半期の全国の求人倍率は1.43であり、前年同期比で0.25ポイント下がっています。大学生の場合は1.44ポイントのマイナスで、大学生の就職がより難しくなったことが分かります。

 新型コロナウィルスの影響で企業側の需要が縮小した上に、卒業生の人数が多すぎるという構造的な問題を抱える中、中国の大学生は本格的な就職氷河期を迎えることになるかもしれません。

 実際、「智聯招聘」が全国の大学卒業生に対して行ったアンケート※の結果によると、51%の卒業生が「今年の大学生の就職情勢はウィルスの影響もあってさらに厳しい」と答え、41.2%が「厳しいが許容範囲内」と答えています。「普通」「簡単だ」と答えた人は合計で約5.5%と、大部分の卒業生が悲観的になっていることが分かります。

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 【図1】は地域ごとの大学生求人倍率の推移を示したものです。全体的にウィルスの流行が拡大した2020年の第1四半期に急激な下降が見られます。下げ幅ば最も多かったのが東部地区で、その次が湖北省を含む中部地区となっています。感染者数が比較的少ない東北はほぼ一定の倍率をキープしています。

 

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就職難を受けてやや消極的になった進路選択

 2020年第1四半期におけるアンケート調査によると、約4分の3の大学生が会社などでの就職を望んでいます。2019年は80.2%でしたから、就職希望者が減っていることになります。大幅な減少とまでは言えませんが、全国的な就職難を見越して、一旦就職しないという選択を取る人が増えているのは分かります。

 また昨年と比較すると、「慢就業」が2.0ポイント下がっています。以前の記事でも紹介した様に、「慢就業」とは卒業後すぐに就職進学をせず、海外旅行にでかけたり、ベンチャビジネスを考えたり、親の世話をしたりしながら、自分の道を模索することを言います。慢就業を選ぶ人の割合は2018年から常に増加傾向にありましたが、今回は減少に転じました。

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 全国の大学生の希望月給は主に5000元~6000元(22%)と4000元~5000元(21%)に集中しています。全体の平均値は6930で、年収にすると83000元くらいになります。

「給与・福利厚生」は大学生が職探しをするにあたって最も重視する点であり(60.8%)、その次は「新しい知識を学べる」(45.5%)、「キャリアップのため」(30.9%)、「ワークライフバランス」(30.5%)の順に続きます。現実的でありながら、上昇志向も持ち合わせていると言えるでしょう。

 

卒業=失業?

 

 中国には「毕业即失业(卒業したらすぐ失業)」という言葉があります。

 大学卒業生は毎年過去最多を更新し続けているものの、企業の採用ニーズが追いつていないため、労働力の供給過多に陥っているためです。

 先にも述べたとおり、今年は新型コロナウィルスの流行を受け、全国の求人倍率は下がっています。

 最近は都市封鎖が解除され、国内での移動もだいぶ便利になりました。しかしコロナ前の状態に戻っているとは言えません。移動における制限は、省をまたいでの就職活動にも影響します。

 また大学内で定期的に開催される就職説明会も中止を余儀なくされており、大学生はインターネット上の情報に頼るほかありません。

 就職が難しいとなれば、一旦海外に留学するという方法もありますが、世界的に入国制限が設けられ、ビザの発給も停止されているため、現実的ではありません。実際、4月から日本の大学に入学する予定だった卒業生が、今も足止めされているという話を聞きます。

 このように2020年の大学卒業生は未だかつてない困難に立ち向かおうとしています。

 先日、北京で開幕した全国人民代表大会では今年の経済目標の設定が見送られました。人と物の往来が活発になり、経済が上向けば、就職難も改善されるでしょうが、全体経済しかり、大学生の就職しかり、未だ「巨大な不確実性」を抱えています。

 

 

 

※調査機関:中国人民大学中国就業研究所、智聯招聘
期間:2020年2月13日~3月27日
サンプル:中国全土31の省と市、大学生10870人(うち卒業生7571人)
※本篇における求人倍率の募集人数と求職者数は「智聯招聘」のサイト上で掲載されているそれぞれのデータを中国全土55の都市から抽出して統計したものです。
参考サイト:疫情对2020届大学生就业有这些影响

 

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