チャイナ・ドリームの未来都市 。話題の「雄安新区」に行ってきた。

甄智协尔-セレクト・シェア「雄安新区」

取材・文/セレクト・シェア 井上直樹
写真提供/神谷秀2

 

 突然ですが、皆さんは「雄安新区」という言葉を聞いたことがありますか。普段、中国関連のニュースをご覧になっていたり、北方エリアにお住まいの方なら一度は耳にしたことがあると思います。

甄智协尔-セレクト・シェア「雄安新区」图片来源:《【998•看世界】这里是河北!》
http://www.sohu.com/a/260456269_717564

 

 これを平たく言うと、河北省の片田舎に一部首都機能を移し、そこに金融、ハイテク産業、そして居住区を兼ね添えたニュータウンを建設するプロジェクトを指します。始まったのは2017年の4月で、総面積は約2000㎢。東京都が2187㎢なので、これと同じくらいのニュータウンをこしらえようというのです。この国のスケールにはいつも驚かされますね。

 という訳で今回は話題の雄安新区に行ってきました。一体、雄安新区はどんなものなのか、写真と資料でご紹介します。

 

 なぜこんな片田舎に?

 雄安新区は天津市内から西に110km、北京市内からは南に120kmほど行った、河北省保定市の東にあります。

北京・天津との位置関係

甄智协尔-セレクト・シェア「雄安新区」 

  2020年末には北京と雄安新区を結ぶ高速鉄道も開通し、今後はさらにアクセスが便利になるそうです。当日は天津市内から車で行きました。栄烏高速という高速道路を西に進み、片道の所要時間は2時間半〜3時間といったところです。道中はこれといった都会を通ることもなく、高速道路沿いには華北エリア特有の荒涼とした大地が広がっていました。まさに砂漠に現れたオアシスの様です。

 さて、ここで1つ目の疑問が浮かんできたと思います。

「なぜ、こんな場所にニュータウンを作らなければならないのか?」

 日本の高度成長時代も全国各地にニュータウンがつくられました。代表的なのは関東の多摩ニュータウン、関西の千里ニュータウンなどです。これら日本のニュータウンは、都市化に伴って、同心円状に広がっていくのが普通です。しかし、ここ雄安新区は北京や天津といった大都市から離れた片田舎に突如として現れます。ここにニュータウンを作る公式な見解が気になったので調べてみました。

 

交通が便利

自然環境に恵まれている

現時点であまり開発されていない

発展の伸びしろがある

 

 筆者・大学時代のクラスメートである江小泉くん(仮名・浙江省出身・30代)は雄安地区で働いています。下はその江くんから聞いた話です。

「ニュータウンを開発するには、そこに住んでいる農民に立ち退いてもらわなければなりません。将来、新区が建設される場所には現在数十万人の農民が暮らしています。彼らには経済保障金や新しい住居などを提供しなくてはなりませんから、その費用は莫大です。立ち退く前よりも生活レベルを下げるのはもってのほかで、新しい生活環境を整えてあげる必要があります」。

 つまり、首都北京から出来るだけ近く、比較的経済レベルが低いということが、重要な理由なのかもしれません。

 

 また、比較的発展の遅れた場所にニュータウンを作るのは、今に始まったことではありません。深センはもともとさびれた漁村でしたし、上海の浦東新区もただの原っぱでした。それが今や人類史上もっとも発展の速い都市だと言われています。

 

 天津市内を出発したのは8:30。雄安新区の容城県に着いたのは11:00過ぎでした。「容城」というところで高速道路を下りると、江くんが我々を出迎えてくれました。さぞや建設中のビルや建機などがいっぱいあるのだろうと想像していましたが、それらしいものは見当たりません。新区の政府機関があるのはごく普通の田舎町です。

 

甄智协尔-セレクト・シェア

 高速道路を下りたあたりには比較的新しいマンションが立ち並んでいました。ちなみに新区内は不動産の売買が政府により禁止されています。これは不動産価格がつり上がるのを防ぐためだそうです。また、新区が成立されてから二年間は民間によるハコモノの建設が禁止されていました。ここまで厳格に制限するのは、中国の他の新区ではあり得ません。

 

甄智协尔-セレクト・シェア

 容城県の中心にある市場。どこにでもある片田舎の市場です。新区のある容城県はもともとアパレル産業で栄えていたそうです。街のいたるところにブティックがありました。

 

甄智协尔-セレクト・シェア
江くんに案内され、私達は新区市民サービスセンター(市民服务中心)の入口に行きました。広大な駐車場に大型観光バスや乗用車がたくさん停められており、団体観光客が次々と到着していました。ここから無料シャトルバスに乗ると、雄安新区市民サービスセンター内に行くことができます。

 

甄智协尔-セレクト・シェア

これらの建物は100日で建てられたそうです。
これこそ正に中国のスピードです。

 

 容城県の東部にある市民サービスセンターは新区の心臓として、区政府の役所や金融機関、娯楽施設、宿泊施設、そして会議場などが集中しています。江くんの話によると、今の所ここしか見るものはないそうです。ただし、ここはモデルエリアでもあることから、新区の発展コンセプトを知るには格好です。皆さんもぜひ訪れてみてください。

 

甄智协尔-セレクト・シェア

 写真は市民サービスセンターの中を走る自動販売者。5mくらい離れた場所で手を振ると自動で停車してくれるらしいですが、当日は政府の方が来るということで、走っていませんでした。 

甄智协尔-セレクト・シェア「雄安新区」

商品の補充は手作業。ここはアナログ。

 

甄智协尔-セレクト・シェア「雄安新区」

自動清掃ロボット。動かないと思ったらお昼休み中でした。

 

 

甄智协尔-セレクト・シェア「雄安新区」

 市民サービスセンターの映画館。江くん曰く、市民サービスセンター唯一の娯楽施設だそうです。一般の映画以外にも新区の宣伝ビデオが観られます(8元)。

 

甄智协尔-セレクト・シェア「雄安新区」 京東の無人スーパー。でも、みんな利用の仕方が分からないので、それを教えるための店員が2〜3人常駐。決算する時は顔認識をされます。

 

甄智协尔-セレクト・シェア「雄安新区」
金融とハイテク産業の発展を奨励しているので、都市銀行やアリババ、テンセントなどの企業が進出しています。ご覧の通り、どれも政府お抱えの大企業ばかり。

 

 

雄安新区管理委員会
市民サービスセンターには政府機能が集約されています。
ここがいわばニュータウンの本丸。

 

甄智协尔-セレクト・シェア「雄安新区」

いたるところにEV車の充電スタンドがあります。
新区ではクリーンエネルギーの導入を徹底するそうです。

 

 

甄智协尔-セレクト・シェア「雄安新区」

 今回我々が見学したのは市民サービスセンター内だけです。他も見て回りたかったのですが、まだ一面の農地が広がるばかりです。


中国国務院が発表した計画によると、雄安新区の全体プロジェクト期間は2018年から2035年となっています。江くんの話によると、現時点では住民の立ち退き事業や交通、水利、環境保護のためのインフラ建設が優先して行われているそうです。しかし、このプロジェクトは17年で終わるものではありません。「千年大計」というスローガンを掲げ、人類社会における未来都市のあり方を世界に向かって示すという壮大な目標があります。だからこそクリーンエネルギーや人工知能、無人スーパーといった最新の技術が取り入れられているのです。まさに国家の威信をかけた一大プロジェクトなのです。

 

まとめ

 雄安から天津に戻る車中、私達はこの新区と深セン、浦東新区の違いなどについて議論を交わしました。

①政府主導の雄安新区、民間主導の深セン・浦東新区

 雄安新区は中共中央、国務院によって認可・成立された唯一の新区プロジェクトです。つまり、位置づけとしては鄧小平が提唱した深センや浦東新区よりも上なのです。但し、深センや浦東新区は下から、つまり民間の力によって発展してきました。

②未来の最新技術を積極的に取り入れたまちづくり

 文中でも述べた通り、市民サービスセンターには人工知能を搭載したお掃除ロボットや自動販売ロボット、無人スーパー、顔認識などの最新技術が街の至る所に取り入れられています(「普通」に作動しているところを見られなかったのが残念ですが)を。また、センター内に入ることが出来るのをクリーンエネルギー車だけにしたり、40%の緑化率を目標にするなど、環境に優しい都市でもあります。 

③人材を引き付ける魅力がない

 これは新区の発展にとってマイナス要因かもしれません。この地区の重点産業は金融とハイテクです。現在中国のハイテク人材は、テンセントやファーウェイがある深セン、それからアリババの本社がある浙江省などに集中しています。もし仮に北京や天津から人材を集めるとして、彼らが何の刺激もない片田舎に行きたいと思うでしょうか。人材を引き付けるための環境づくりが急がれます。

 

 以上が雄安新区を見学してみての感想です。但し、このプロジェクトはまだ始まったばかりなので、5年くらい経った後に再訪してみてみたいと思いました。

 

 深センしかり、浦東新区しかり、何度も奇跡を起こしてきた国だけに、期待を持てることは確かですが。

 

おまけ

甄智协尔-セレクト・シェア「雄安新区」河北省名物のロバ肉サンド(驴肉火烧)で腹ごしらえ。
地元では「天上龙肉,地上驴肉」という言われるくらい人気があります。
ぜひお試しください。
(店名は「暁利驢肉火焼」だったと思います)。

 

 


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